『遠足の訳』
『二人だけの時間』の夜行メンバーsideの話です。
併せて読んでいただければ良いかと思います。
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夜行本拠地が見える小高い山の上に、小さな子供から二十歳台の大人まで総勢百人はいようかという団体が弁当を広げていた。
和気あいあいと食事をしているようにも見えるが、どうも違うらしい。
「はわわ、頭領と副長が縁側で話をしてるみたいだヨ」
箱田が自慢の千里眼で本拠地に残っている正守と刃鳥の様子を皆に伝えていた。
「それでそれで?」
皆は興味津々に聞くが、当の二人は日常の会話をしているだけだと箱田が伝えると、大勢から不満が漏れた。
夜行の面々はあの二人が上手くいくことを願って二人っきりにさせたのに、何もなくてはつまらないのである。箱田が悪いわけではないが、申し訳なさそうにしていた。
そんなとき、二人が立ち上がってどこかへ移動したのである。当然、皆は色めき立つ。
「真っ昼間からかよ」
という気がしないでもなかったが、やっと二人が……と想像を膨らませていたが、実際は台所に行き、オムライスを作って食べていただけであった。
再び、場の雰囲気が悪くなった。
「頭領ってさ、ストイック過ぎやしねぇ?」
「そーそー、よく何もしないでいられるよなぁ。俺だったら無理無理」
「副長もさぁ、素直になりゃいいのにねぇ」
勝手なことを言ってるようにも思えるが、気付いてないのは当人ばかり。周知の事実なのである。
「ボクちゃん、ちょっとお休みしておにぎりお食べなさい」
箱田の母は息子に休憩を促して、おにぎりを手渡した。箱田はちんまりと座ってもぐもぐ食べ始めた。
すると横に行正がやってきて、
「ノド詰まるだろ? ほらお茶」
そう言ってペットボトルのお茶を手渡した。箱田は嬉しそうに受け取って、ごくごくと飲んだ。
「なぁ、頭領と副長。どんな感じ?」
行正に聞かれて箱田は、
「すごくいい感じだヨ。新婚さんというよりは、熟年カップルって感じ」
と答えた。行正はそうかと返事した。
「あーーーーーーーーーっ、頭領と副長、また縁側に戻ってきたヨ」
箱田が立ち上がって叫んだ。だが皆は諦めたようであまり関心を示さなかった。
しかし箱田はそんなことは全く気にせずに、二人の動向を見守っていた。
「あっ、はわわわわっ、あーーーーーーーっ」
あまりの箱田の興奮っぷりに、皆も再び興味を示し始めた。
「箱田、何があった、報告してくれっ」
詰め寄られた箱田は顔を真っ赤にして、あたふたしながら答えた。
「あのね、頭領と副長が見つめ合ってて、副長が頭領の肩にもたれて、それから……」
「それから?」
「キ……キ……無理っ!!」
そう言って箱田は行正の後ろに隠れた。
「キ? キスしたのかっ!?」
轟が聞くと、箱田は何度も何度も首が折れそうになる程、頷いた。その瞬間、周りにいた者は沸き立ち、何故か万歳三唱を始めた。
山を下りた後、数名がケーキ屋に立ち寄り、ホールケーキに『頭領v副長 おめでとう』の文字を入れてもらった物を土産として持ち帰った。
それを渡された正守と刃鳥は、皆が遠足に出かけた理由がやっとわかった。そしてまんまと乗せられてしまったことが悔しかったのか、恥ずかしかったのか、正守は絶界を発動、刃鳥は黒羽を乱射させ、夜行本拠地はパニックに陥った。
しばらくして二人が落ち着きを取り戻した頃に、アトラは腕を組み、仁王立ちになって、上司である二人を目の前に一言こう言った。
「どーんと構えて下さいよ、頭領、副長」
そう言われた正守と刃鳥は同じように頭を下げ、皆に謝ることでこの一件は幕を引いが、
――先が思いやられる……――
大部分の者がそう感じていた。
Kさんからのコメントで「夜行メンバーサイドからの様子も書いたら面白いんじゃないか?」と思って、書いてみました。
まっさんと美希さんがちょっと壊れ気味なのがミソかな?
箱田くんは可愛いvv
081103