『二人だけの時間』

夜行の大人達が子供達を連れ、遠足と称して出かけたために、今日は朝から本拠地には正守と刃鳥の二人だけだった。

「静かですね、あの時以来でしょうか」
縁側に座っていた正守の横にやってきた刃鳥が声をかけた。
夜行を設立が決まり、裏会からこの場所を譲り受けることになり、正守と刃鳥他数名と中を見に来たときのことを思いだしていた。
「こんな大所帯になるとは思ってなかったな。ずっと刃鳥には迷惑をかけっぱなしで、疲れたろう」
正守は申し訳なさそうに言ったが、刃鳥は首を横に振り、笑顔を見せた。
「私はここに来てからも辛いことはありましたけど、それ以上に楽しいことが増えました」
刃鳥は自分の過去についてほとんど離さなかったが、正守は彼女が辛い道を歩んできたのだろうということを感じていた。刃鳥が話さないのなら正守は聞かない。彼女から話してくれるようになったら、全てを受け止めようと思い続けている。

「お昼は何を召し上がります? 簡単なものしか作れませんけど……」
恥ずかしそうに刃鳥が言うと、
「じゃぁ一緒に作ろうか。オムライスなんかどう?」
正守がそう提案した。刃鳥は頷き、二人で台所に立った。正守がチキンライスを作る間、刃鳥は卵を溶き、沸かした湯でインスタントのスープを用意をした。
正守はチキンライスを皿に盛りつけた後、ふわふわのオムレツを作ってチキンライスの上に乗せた。真ん中に包丁を入れると中からとろっとした半熟の卵が流れてきた。
「おいしそう……」
とつぶやいた刃鳥を見て、正守はニコッと笑った。
食卓には大皿に載ったオムライスとカップスープが二つ。一つのオムライスを二人でつついた。
――ドラマやマンガなら恋人同士がこんな事してそうだわ――
そう思いながら刃鳥はオムライスを口に運ぶと、素朴なおいしさに顔がほころんだ。正守はその笑顔にごちそうさまと言った。

刃鳥が後かたづけをし終わると、正守は縁側でお茶をいれて待っていた。二人は並んで座り、食後のお茶をすすった。
「なんだか夫婦みたいだな」
正守がつぶやくと、刃鳥はご冗談をと返した。夫婦どころか恋人ですらないのに、突拍子もないことをと思ったのだ。
「もし刃鳥が俺のことを嫌いでなかったら、上司と部下ではない二人の関係を築いてみないか?」
その言葉に刃鳥が正守を見ると、顔を赤くしながら刃鳥を見つめていた。あまりにも真剣な眼差しに目を逸らすことが出来なかった刃鳥は、
「それって……」
と言うのが精一杯だった。
「好きなんだ、お前のことが。いつからかなんて覚えてないけど……いきなり恋人になんて言わないから、俺個人に興味を持ってくれないか?」
普段とは違い、少年が垣間見える表情で正守は一所懸命言葉を紡いだ。しかし刃鳥は何も言わずにうつむいた。それを見た正守は諦めの表情を浮かべて、独り言のように言った。
「すまない。無理なことを言って……忘れてくれ」
すると刃鳥は慌てたような声で、
「違います、そうじゃないんです」
その言葉に正守は驚いた顔をして彼女を見た。
「私……ずっと頭領のことを見てきました。頭領は私のことなんて見ていないと思っていたから、ビックリして……でも私の気持ちには気付いてらっしゃらなかったんですね」
恥じらいながらそう言う刃鳥を正守は初めて見た。そして鼓動が激しくなるのを感じていた。
「それならお互い様じゃないか。刃鳥だって俺の気持ちに気付いてなかったんだろう?」
言わなくてもいい意地悪を言ってしまった正守に、刃鳥はごめんなさいと詫びた。そんな彼女の手を取り、
「今から始めたっていいじゃないか。このまますれ違っていたら俺も辛いから」
と正守が言うと、刃鳥は彼の肩に身体を預けて、
「私も貴方が好きです。もっと私を知って下さい」
そう返事した。
そして二人は見つめ合い、優しい口づけを交わした。その後も二人並んで穏やかな時間を過ごした。

その頃、遠足に行った夜行の面々は少し離れた山の上で、箱田の千里眼実況中継を聞きながら興奮のるつぼにあった。
当の二人は知ってか知らずか、仲間の策略にハマったようであった。


お題「キスの格言」で、初めてお互いの気持ちをハッキリと告げるシーンが無いなぁと思ったところで浮かんだ話です。
時系列順で言うと4と5の間で、唇なら愛情の別ver.だと思っていただければ…
まっさんと美希さんが可愛くイチャイチャするのを見てみたいんだよ
_| ̄|○ノシノシ 081030