『キスの格言・1』
額なら友情
(フランツ・グリルバルツァー『接吻』より)
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出会った時はただ目を惹いただけ。
言葉を交わし、共に行動すると興味が湧いた。
知れば知るほど面白いと思った。
「墨村さん、書類まだですか? 上からせっつかれてるんですけど」
裏会の訓練施設の庭で一人修行をしていた正守の元に、刃鳥がやってきて迷惑そうに言った。
「あ、まだ出してなかったっけ? 悪いね、取りに来させちゃって」
へらへら笑いながら言う正守に、刃鳥は更に不機嫌になった。笑いながら言ったこと以上に腹立たしかったのは、毎度毎度書類を取りに来させられることだった。
「ちょっと待ってて、今持ってくるから」
正守はそう言うと、屋敷の中に入っていった。
――しっかりしている人だと思っていたのに――
最初の頃はちゃんと自分で提出していたのだが、ある時を境に刃鳥が取りに来るまで何もしなくなったのである。彼女には思い当たるフシはなかった。
「おまたせ。はいこれ」
正守はそう言いながら刃鳥に書類を渡した。刃鳥はそれを受け取って内容にざっと目を通し、
「書類が出来てるのなら、今後自分で持っていって下さい。私は墨村さんの秘書ではありませんから」
と眉間に皺を寄せながら言った。すると正守がグッと顔を近づけてきたので、刃鳥は眉間の皺もそのままに身構えた。
二人は身じろぎもせず、凍り付いたような時間が流れた。
そしてそれを打破したのは正守。彼の唇が彼女の額に触れた。その瞬間、刃鳥は後ろに引き、正守を睨み付けた。
「友愛のしるし…かな」
正守は優しい表情でそう言い、その場を立ち去った。取り残された刃鳥は、
「友愛? 冗談でしょう?」
とつぶやいた。
一度は耳に目にしたことがあるであろう『キスの格言』で書いてみました。
これが意外と難しいorz
正刃で時系列順にチャレンジしてみたので、良かったらお付き合い下さい。
081023