『菓子の代わりに甘いキスを・1』

自室に籠もって仕事をしている正守をそろそろ休憩をさせなければと思った刃鳥は、お茶と茶菓子を用意して正守の部屋に入った。
正守はありがたいと言って茶をすする。そこまでは普通の休憩する光景なのだが、問題はここからで、刃鳥は目の前の正守を見ながら大きなため息をついた。
理由は簡単。遠慮することなく、茶菓子のみたらしを貪っているからだ。
正守が甘いものを好んでいるのは、長い付き合いだから分かっていることだし、それでリラックスすることも知っている。だけど身体のことを考えると少しは控えて欲しいと常々思っていた。
「あの、頭領。甘いものを少し控えてもらえませんか?」
刃鳥は六本目の串に手を出そうとした正守に言った。
「あれ? 気付かなかった? 前よりは控えてるんだけど」
正守はサラッとかわして六本目の串から団子を一つ口に運んだ。
確かに以前に比べたら食べる量は減っているが、普通の人が食べる量よりははるかに多い。刃鳥がそうたしなめると、正守は何かを考えるように、顎に手をやった。

少しして名案でも浮かんだのか、刃鳥の顔を見て、正守は口を開いた。
「じゃぁさ、俺が甘いものを我慢するたびにキスしてよ」
「はぁ?」
刃鳥は途端に不機嫌な顔になった。それもそのはず、正守が甘いものを我慢することと、刃鳥が正守にキスすることの関連性がないからである。
ゴキゲンに提案してきた正守に問いただすと、返ってきた答えはこうだった。
「俺は好きな甘いものを刃鳥の指示で我慢させられるんだから、その分の欲求を刃鳥が満たしてくれないと不公平じゃないか」
――聞かなければよかった――
刃鳥はそう思いながら頭を抱えた。だが背に腹は代えられない。正守が病気になって困るのは、正守本人もそうだが、刃鳥を始めとした夜行の構成員。副長として皆の為に犠牲になるのも仕方ないかもしれない。
刃鳥自身も正守に好意を持っているので、決して嫌だというわけでもない。ただ女心として納得いかないだけであった。

「分かりました、一日一回。それでよろしいですね?」
意を決した刃鳥の意見。
「いや、一日十回。甘いものの量からしたらこんなもんだろ?」
十倍を要求する正守。
「じゅ、十回? そんなのは多すぎます。……二回なら」
ほんの少しだけ譲歩する刃鳥に首を縦には振らない正守。
この後二人の間で要求合戦が続く。要求内容は徐々に差が詰まり、結局五回というところで刃鳥が妥協した。もしここで諦めなければ、一日一回キス以上のことを要求されそうな勢いだった為に、そうせざるを得なかっただけである。

精神的に疲労困憊の刃鳥の横にぴたりと身体を付けた正守は、
「早速一回目」
と言って目を閉じた。
「えっ、私からするんですか?」
刃鳥は驚いたように言った。いつもキスをする時は正守からなので、自分からしなければならないとは思っていなかったようだ。
「ほら、早く」
と正守が急かすので、刃鳥は仕方ないと諦めて正守の頬に手を添えて、軽くキスをした。
刃鳥からキスしてもらえたことに正守はご満悦の様子。刃鳥はというと、初めて自分からしたキスの味が、みたらしだということに遠い目になっていた。
そんな刃鳥を見ながら正守は、
「ごちそうさま。あと四回よろしく」
と言った。それを聞いた刃鳥は、また大きなため息をついた。

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まっさんが甘いものと美希さんを天秤にかけた時、どっちを取るのかな?と考えたら、ちょっと暴走した感じです。
まっさんは美希さんには自覚無くわがまま言い放題な感じがします。大きな子供? 081009