「すっみむーらくーん」
楽しげな声が近づいてきた。
声の主は満面の笑みをたたえた竜姫であった。
「どうしたんです？」
「どうしたって……見てわからない？」
首をかしげる正守に諦めムードが早速漂う。
「ほらー、シュシュよ。シュシュ。可愛いでしょ。
うちの娘達が作ってくれたの」
竜姫の髪に手首に色とりどりのクシュクシュになった布が沢山付いていた。
こういう事に疎い男には――だから何なんだ？――としか感じない。

「墨村くん、器用でしょ？　まだ布とかいっぱいあるから作ってみたら」
誘われるまま、竜姫が出てきた部屋に足を踏み入れた。
数人の女性が和気あいあいと針を動かしている。
「布も沢山あるから一つぐらい作ってあげたら？　『彼女』に」
最後の一言が気になったが、
変に問いただして藪をつつくような事はしたくない。
「いや、いいですよ。そんな暇……」
そう言いかけた時、一枚のハギレに惹かれて手に取った。
『きっと……似合うだろうな』
彼女がそれを髪に付けたところを想像して、笑みがこぼれた。
「良い趣味してるわねぇ。それすっごく良い生地よ。
色は渋めだから明るい色の髪に映える……って
墨村くんそうなんだ」
「そうって何ですか？」
「へぇー、部下には手を出さないって無道に言ってたらしいのにねぇ」
ニヤニヤする竜姫に、告げ口をした男が重なって見える。
正守はハァとため息をついて、あきらめの表情を浮かべた。

「すみません。作り方を教えてもらえませんか？」
「いいですよ、横にどうぞ」
返事をした女性の横に座り、早速教えを請う。
その姿を『真面目ねぇ』と竜姫は思う。
「墨村くん、たまにはウチに帰りなさいね」
「そのつもりです。これが出来たら……」
「彼女のリアクション聞かせてねー」
手をひらひらさせながら竜姫は部屋を出て行った。

頭領が一時的に居を裏会総本部に移すことになった。
正：すまないがしばらく夜行のことは頼む
刃：わかりました。頭領も無理しないでくださいね
正守出かける

亜：副長、いいんですか？　別居なんかしちゃって
巻：別居って言うよりは単身赴任じゃないっすか？
刃：あのね、どうしてそんな話になるのかわからないんだけど
亜：気になりませんか？　頭領が浮気しちゃわないかとか…
刃：だから、頭領と私はそんな関係じゃ…
巻：あれから何の進展もないなんて、アホなんじゃないですか？　あの人
刃：くだらない話はそこまで。これからは主任達にも今まで以上に
　　協力してもらわなくちゃいけないんだから
巻：わかりました。それじゃ俺はこれで
巻緒退場

刃：花島は？
亜：でさぁ、ホントのところはどうなの？　美希
刃：ホントも何もないから
亜：一応その言葉、信じておくわ。でも一つだけ言わせて。
刃：わかってる。時折甘いものの差し入れでも持っていくから
アトラの考えは刃鳥にはわかっている。
差し入れを持っていくことに意味があるのではなく、
正守の元に行ってグチを聞いたりして、息抜きをさせることに意味がある。

亜：もし頭領が浮気するようなことがあったら、
　　私ボイコットどころじゃすまないかも
刃：どうしてそこでアトラが怒るのよ
亜：美希のそういうところ好きよ
アトラは刃鳥にハグする。刃鳥はちょっと困った顔をする