『頭領VS諜報斑主任』
「細波さん。頭領がお呼びです」
夜行の副長、刃鳥美希に声をかけられた。部屋の片隅で携帯をいじり、仕事をしていた細波は声の方向を向き
「分かった。今行く」
と答えた。
――急に何の用だ?――
確かに正守からの命令で動いてはいるが、今は特に報告するような事もない。新たに何か指令を受けるのだろうかと色々思案を巡らせながら、廊下を歩いた。
頭領の部屋の前に立つ。既に静かで威圧的な空気が漂っていた。細波の額に冷や汗が伝い、頭領に圧倒的なモノを見せつけられた、あの時を思い出させた。
「細波です」
「どうぞ」
その言葉を合図で細波は部屋に足を踏み入れた。正守はあの時と同じように胡座をかき、腕を組んでいた。
――俺は何にもしてねぇよ――
細波はそう思いながら正面に正座した。
普通の相手なら読心術で頭の中を読むことが出来るが、正守はそれが出来ない相手なだけに、思考を先回りさせることが出来なかった。
細波がそんな考えを巡らせていることを知ってか知らずか、沈黙の間をおいた正守が口火を切った。
「あなたはこれを何処で手に入れました?」
正守はそう言って懐から手のひらより大きいプラスチック製のパッケージを取り出し、細波の前にそっと置いた。
「こ……これはっ」
思わず細波は声を出してしまった。
そのパッケージにはスーツを着て傲慢な表情をしていると思われる男の口元から下と、スーツを半分以上脱がされて肌を露わにして恍惚の表情を浮かべた女が絡み合う写真。そして周りには情事と言うよりは猥褻なシーンの細かいカットがちりばめられていた。その上に大きく書かれた文字。
……つまりエロDVDだ。それも細波が戦闘斑の連中にお土産として渡したものである。
――こんなモノを持ち込んだことを咎められているのか? あんたも男ならわかんだろうよ。男の性だよ、サ・ガ。そりゃ頭領には副……まあいいや――
とツッコミどころを頭の中で必死に探す細波。
「あー、これを持ってるってことは巻緒辺りから聞いたでしょうが、あいつらへの土産ですよ。外に出た時に……」
と言う細波に正守は
「そう言うことを聞いてるんじゃありません。あなたは何処で手に入れたんです?」
と入手場所を聞いてきたのだ。ますます正守の意図が分からない細波は
「え……と、ショップです。それ専門の」
と素直に答えるしかなかった。それを聞いた正守はまた腕を組み、何かを考え出した。困った細波はパッケージに目をやり、見つめているとあることに気付いた。
――あ、この女。メガネをかけてるけど副長に似てるんだ。よく見りゃ男の方も頭領に……似てなくはないな。……!!! まさかこれ、頭領と副長じゃ!!! ……んな訳ないか――
細波は思わず頭の中で一人ボケツッコミをしてしまった。
「頭領、これがどうかしたんですか?」
取りあえず聞くしかない。そう思った細波は質問をぶつけた。すると正守は、
「これ、一本だけか?」
と顔を……耳まで赤くして言ってきた。
――こいつ…欲しいのか?――
細波はそう思っても口にしたらきっと消されると思ったが、案外ストイックなのかもしれないと、顔を赤くした図体のデカい上司を不憫に思い、
「この女優の秘書モノなら他に三本ありますよ。相手も同じ男優で。必要でしたら手に入れてきますけど」
と言ってみた。すると正守はますます顔を赤くして横を向き、口元を手で押さえた。その様子に細波はニヤリとしてしまった。なにしろ無敵とも思われる頭領の弱みを握ったのだから当然とも言えよう。
「じゃぁ、俺はこれで失礼します」
と声をかけて立ち上がると、正守から頼むと一言。細波は了解と返事をする代わりに片手を挙げた。
細波は部屋に戻る廊下で歩きながら考えた。
――まぁ十代後半に夜行を創設して、ここまでの組織にしてきたんだから、あんまり俗な事に触れてなかったんだろうな。たまにゃぁ息抜きでもしてもらわないとこっちも困るし……って、副長とそういう仲じゃなかったのか? すっかりデキてるもんだと踏んでたんだが、手ぇ出してなかったのかよ。驚きだな。惚れた女に何もしないその精神力をくどく方に向けりゃぁよかったのに……――
翌日、早速正守の手元に三枚のDVDが届けられた。
そしてその数日後、再生用のDVDプレイヤーと共に四枚のDVDは正守の手元から取り上げられたのである。夜行の副長、刃鳥美希の手によって。
勝者 副長ってトコでしょうか(笑)
細波がわざわざ心を読まなくても分かってしまうほどの感情がまっさんにあってもいいと思うし、そーゆーのに興味があったっていいわけで。
ただ押収したブツを美希さんがどうしたか、それは……おや?こんな時間に客が来た。
080926