『夜の端で』

夜行本拠地の建物の隙間。月の光の恩恵をあまり受けないその場所に、重なり合う人影。
一つは壁に押しつけられた細身の女。 もう一つは女の目に自分しか映らないようにしているとしか思えない様に、覆い被さるガッチリとした体躯の男。

「頭領、どういうおつもりで?」
少し険しい顔をして刃鳥が言った。
「ん、憎からず想い合う男と女が人目につかないところにいれば、自ずと分かるだろ?」
含みのある笑みを浮かべながら正守が刃鳥の耳元に囁く。 その意味を察した刃鳥は逃れようと正守の身体を押しのけようとしたが、 時既に遅く、捕らえられていた。
正守の左手は刃鳥の腰を、右手は左肩を、右足は膝の間を。

「こんなところを誰かに見られたらマズいでしょう」
刃鳥はなだめるように言ってみたが、正守の浮かべた笑みは変わらない。
「俺は別にかまわないよ。刃鳥を抱けるなら何処だって」
そして続けざまに普段の正守なら言わないような、甘い言葉を囁き続ける。 刃鳥が止めてと攻めれば、そそられると返し、 勘弁して下さいと懇願すれば、色っぽいよと返されて埒があかない。

刃鳥の身体に触れている正守の手足が動かされている訳ではなく、 ましてや敏感な部分に触れられているわけでもない。 なのにその囁きに刃鳥は少しずつ顔を紅潮させる。息が乱れる。 その様子を見て、正守は言い放つ。
「ねぇ、俺の声ってそんなに感じる?」
その言葉に観念したのか、刃鳥は大きく息を吐いてから
「こんなところでは……嫌です」
と呟いた。
「そう。逃げないって約束してくれるなら、刃鳥の望む場所に移動してもいいよ」
その正守のが提示した条件を呑むしか現状を打破する方法はないと、刃鳥は頷いた。

壁と正守から解放されて、ホッとしたのも束の間。刃鳥はすぐに正守に抱き寄せられた。
正守は驚く刃鳥の髪に唇を寄せて言った。
「じゃぁ、行こうか。美希」


夜行の本拠地だと人目がありすぎるので、基本的に情事は部屋の中でだと思うんですが、たまにはシチュエーションを変えてとまっさん(黒)に行動させたのに、なんじゃこりゃ。
結局ね、まっさんは美希さんに甘くて弱いといいなぁってことです。 080923