『大黒柱』

「お茶にしましょうね」
刃鳥はそう言って、グリーンティとケーキを運んできた。
丁度正守も休憩をしようかと思っていたところだったので、ありがたいと思った。
皿に載っていたチョコレートケーキはずっしりとした感じで、表面もチョコレートでコーティングされていた。
フォークで一口大に切って口に運ぶと、ほろ苦いチョコレートの味が広がる。
「これは美味しいな。ケーキというよりはチョコレートに近い感じがする」
「お気に召しました? このケーキは大黒柱という名前が付いてるんです。夜行の頭領である貴方に似ていると思って取り寄せたんです」
刃鳥は満足げだ。そんな笑顔もご馳走かもしれないなと正守は感じた。

正守は自分を夜行の大黒柱であると刃鳥が認めてくれていることが嬉しい。当たり前のことなのだろうが、こんな風に言ってもらえたのは初めてかもしれなかった。
いつもわがままを言ったり、勝手な行動をしても肯定するだけではなく、叱ってくれることも嬉しかった。
――刃鳥に甘えているんだな、俺は――
薄々気付いてはいたが、本人に伝えたことはなかった。

「はい、あーんして」
フォークに一口大の大黒柱が乗っている。それを刃鳥の目の前に差し出すと、目を丸くして正守を見つめてきた。
「お前は俺の心の支えになってくれてると思うんだ。俺の大黒柱……かな」
子供っぽく笑う正守を見て、刃鳥も微笑んだ。
「私なんかが頭領の? そんな風に思って下さってたなんて知りませんでした。……でも嬉しいです」
そう言ってチョコレートケーキを口にした。

「私、甘いですか?」
「いや、苦いね。でも奥深い甘さがある感じだな」
刃鳥は困ったような、恥ずかしそうな顔をしてうつむいた。
そんな彼女の反応が新鮮で、正守も気恥ずかしくなってしまい頭を掻いた。
「いや、その他意がある訳じゃなくて、ただこれからもお前の手が必要だから……じゃなくて」
言いたいことはハッキリしているのに正守の頭の中は何故か混乱して、上手く言葉が出てこなかった。
「わかってます」
正守の手に自分の手を重ねながら刃鳥は言った。
清々しい彼女の笑顔を見た正守は顔を引き締め、うんと頷いた。


お気に入りのチョコケーキ『大黒柱』で一ネタ。
勝手にまっさんケーキと思いこんでたりします。まっさんならきっと一本をぺろりと食べちゃうんだろうなー。
美希さんにも1カットお裾分けして、二人で食べてくれたらいいなぁ。 090912