『桃の花』
十二人会集まりの帰り道。いつものようにイライラを募らせながら、正守は歩を進めていた。
ふと顔を上げると、民家の庭に咲いている桃の花が目に映った。
真っ青な空に鮮やかなピンク色の蕾や花が鮮やかで、そのコントラストに目を奪われた。
「綺麗な桃でしょう。花は好きですか?」
生け垣の向こうから、初老の男性が声をかけてきた。
正守はハッとして、花盗人ではない事を告げようとしたが、男性はそんなことはわかってますよとばかりに笑った。
「ちょっとイライラしていたのですが、桃の花を見て、そんな気持ちはどこかへ行ってしまいました」
そんな正守に男性は目を細めて、うんうんと頷いた。
「そうだ、ひと枝お持ちになりませんか?」
「見事に咲いているのに、手折るのは可哀相です。お気持ちだけで……」
「貴方の大事な方にも見せてあげて下さい。はさみを取ってきますから、待ってて下さい」
正守の返事を聞かずに、男性は家の中に入ってしまった。
「ごめんなさいね。うちの人、若い方と話すのが好きなのよ」
縁側に座っていた上品な婦人が話しかけてきた。どうやら先ほどの男性の妻らしい。
正守は会釈した。
「どうぞ貰って下さいな。出来たら想い人に差し上げるとよろしいわ。そんな方いらっしゃるんでしょう?」
正守の頭には一人の女性の姿が浮かんだ。彼の片腕で、初夏のイメージの様な髪色をした凛々しい人。
否定しようにも、考えるより先に浮かんだということは婦人が言うところの『そんな方』なのだろう。
「そうですね、大事な人はいます」
少し照れる正守の顔を見て、婦人は少女のようにはにかんだ。
「桃の花言葉にはね、あなたに夢中というのがあるんですよ。実は私もね、娘時代に……」
そのとき庭に剪定ばさみを携えた男性が戻ってきた。枝を選り、蕾の沢山ついた枝をバチンと切った。婦人が持ってきた新聞紙でくるみ、正守に差し出した。
「ありがとうございます。彼女にプレゼントしようと思います」
そう言って受け取ると、男性は婦人と目を合わせて頬を赤らめた。きっとこの二人にも桃の花にまつわる素敵な出来事があったのだろう。
正守は会釈して二人と別れた。
携えた桃の花を眺めては、
『あいつはこれを見て、どう思うんだろうな』
そんなことを考えながら家路を急いだ。
最近のまっさんは殺気立ってばかりいるので、和やかな正→刃を書いてみました。
こんな風なら天秤も壊れなかっただろうに…orz
090228