『温めましょう』

まだ冬寒いある日、世間で言うところのバレンタインデー。夜行本拠地では義理チョコが配られていた。義理チョコとはいえ、女性陣による手作りということもあって比較的喜ばれていた。
しかし一番喜ぶであろう甘味好き筆頭の正守はその場にいなかった。彼は一人、任務で関西方面に赴いていた。とはいっても、夕方ごろには戻ってくる予定となっていた。

日も暮れようかという頃、正守が戻ってきた。その手には赤い箱が十数個入った紙袋と風呂敷包みを携えて。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。これお土産」
差し出された紙袋の中には551と書かれた赤い箱。中身は豚まん。
「頭領、ゴチになりまーす」
出迎えた面々は早速食べる算段をしながら土産を受け取り、台所へ向かった。その様子を満足げに見ながら正守は自室に足を向けると、刃鳥もその後に続いた。

部屋に着くなり羽織を脱いだ正守を見て、刃鳥は部屋着を用意し、彼が脱いだ物を片付けていく。それが終わる頃には正守はどっかりと座って風呂敷包みを解いていた。
「刃鳥、これはお前に」
真っ赤な袋の口にハート型のタブが付いていて、タブには『ハート豚まん』の文字。それを彼女の前に差し出した。
「わざわざ別にして下さらなくてもいいんですけど」
「まぁそう言わずに受け取ってよ」
言われるまま袋を開けると中にはハート型の豚まんが入っていた。
「それね、今日までの限定品なんだってさ」
もう一つ、自分用に買った豚まんを袋から出して、ニコニコしながらかぶりついた。その顔を見た刃鳥は眉をひそめた。
「あんまん…じゃないですよね?」
「タブに豚まんって書いてあるだろ。それに俺だって甘いものだけ食べて生きてるわけじゃないし」
子供のように笑った正守を見て、つられて刃鳥もはにかんだ。

そして手の中にある豚まんを見ながら小首を傾げて少し考えた。
「これ、温めなおした方がいいですよね。それからもうひとつの箱の中身も温めた方がきっと美味しいですよ」
彼女には見えないように風呂敷で隠していたつもりの箱を、慌てて自分の後ろに隠した正守は明らかに狼狽していた。
「やっぱり。そうだと思いました。りくろーおじさんのチーズケーキもお買いになったのでしょう?」
箱を見つけられただけでなく、中身まで言い当てられてしまっては隠してもしょうがないと思い、正守はおずおずと差し出した。
「温めなおしてきますね。お茶お願いします」
そう言い残して、刃鳥は二つのハート豚まんとチーズケーキの入った白い箱を持って部屋を出て行った。
やっぱり刃鳥には敵わない。正守はそう思いながら茶筒を手にした。


一応バレンタインネタって事で(笑)
今年は逆チョコというのを流行らせようとしてるみたいですが、別にどっちからプレゼントしてもいいと思うんで、こんな話にしてみました。
美希さんは甘いものじゃない方が喜びそうな気もしますし。

551蓬莱では毎年この時期に2〜3日間限定でハート型豚まんを販売しています。ホワイトデーにも限定品が出るそうで。
多分まっさんは難波でお買い物したと思われます。別にどこでも良いんだけど(笑) 090214