『抱きしめたい』
愛しい人を抱きしめたいと思う事は、いけない事なのだろうか。
正守は傍らにいる刃鳥の肩に手を伸ばすと、パチンと叩かれてしまった。眉をひそめて正守を見る彼女の顔は、頬が少し赤らんでいた。
いつもこんな風にされると、正守は哀しい気持ちになってしまう。
彼女に好意を持っている事を告げてから、いくらか月日は過ぎていた。彼女の返事を聞いたわけではないが、避けられてはいない。むしろ以前よりも優しい視線を向けてくれるようになったのに。
「刃鳥は触られるのが嫌いなの? それとも俺が嫌いなの?」
彼女は困った顔をした。そんなに困らせるような質問をしたつもりがないだけに、正守も困惑してしまった。
刃鳥はうつむき加減にブツブツと口の中で言葉を選んでいた。その声は正守の耳には届かず、彼を苛立たせるだけだった。
「じゃぁ頭領は、どうして私に触りたがるんですか?」
やっと刃鳥が口にした言葉は答えではなかった。質問に質問で返すなんてあんまりだ、正守はそう思った。
「好きな人に触れたい、抱きしめたいと思うのは普通だろ」
彼女に腕を伸ばし、もう一度抱きしめようと試みたが、またも刃鳥はその腕からすり抜けようとした。しかし今度は正守の腕の中に捉えられた。
彼女の香り、柔らかさ、それらを壊さないようにそっと抱きしめる。もう彼女は逃れようとはしなかった。
「こんな気持ちになったのは初めてなんです。だからどうしたらいいのか、わからなくて」
困ったような泣き出しそうな声でつぶやかれた正守はドキッとした。
初恋……なのだろうか。そうでなくとも、今まで感じた事のない感情に翻弄されているようだった。
素直に従ってくれればいいのに、俺なら受け止められるのにと彼女にささやく。
「貴方に執着してしまいそうな自分が怖いんです。他の事が見えなくなるのが……」
「大丈夫だよ。刃鳥は分別のある人だから」
彼女は少し潤んだ目で彼を見上げる。正守は吸い寄せられるようにキスをした。
「時々でも想いを吐き出さなきゃ、壊れるよ」
刃鳥は小さく頷き、正守の背中に腕をまわした。
やっと二人の想いが通じ合った瞬間だった。
「頭領っ!! いい加減にして下さいっ」
刃鳥の怒号を無視して正守はピッタリと彼女の背中に張り付いていた。
「だって俺も想いを吐き出せないとまた勝手な事しちゃうよ。お前の温かさが壊れるのを阻止してくれるんだから」
勝手な持論を展開する正守に
、
「貴方がしつこくするのなら、私は夜行を出ていきますから」
と最後通牒を突きつけた。流石にそれは困ると、名残惜しげに正守は刃鳥の背中から離れると共に、刃鳥はその場を去った。
しばらくして正守の携帯が鳴った。着信したのは刃鳥からのメール。
『今夜、お時間下さい』
こんなにも早く、彼女と結ばれる時がやってくるなんて。正守の心は浮き立った。
そしてその夜。
正守の部屋では刃鳥からくどくどお叱りを受け、しょぼくれる正守の姿があった。
いつも余裕アリアリじゃなくて、子供っぽさを見せるまっさんや、しっかり者の美希さんが乙女なところを見せるとか、そういうのを描きたかったのかな…と思います。
(実は書いた記憶がないorz)どんな作品だよ。
090206