『ランデヴー in the sky』

「続きは明日にしましょう」
いつものように打ち合わせを兼ねて、二人は同じ部屋で仕事をしていて、刃鳥はそう言ってノートパソコンの電源を落とした。それに対し、窓の外を眺めていた正守は生返事をした。
音のしなくなったノートパソコンを閉じ、身体の前に抱えた刃鳥は、
「ではお休みなさいませ」
と軽く頭を下げた。
そのまま障子を開けて出ていこうとする後ろ姿に正守は声をかけた。
「今からイイモノを見に行こう」

また始まった、刃鳥はそう思った。正守は何故か刃鳥に対してだけ、傍若無人なのである。普通ならこういうとき、まず相手に同意を求めるものだろう。しかし彼は決定事項を告げるのだった。
「今からって、夜中ですよ? 一体どこに行こうって言うんですか」
呆れたように言う刃鳥からノートパソコンを取り上げ、机に置いた。そして彼女の腰を抱き、
「俺にしっかり掴まってて」
とウインクした。正守らしくない仕草に面食らった刃鳥は固まってしまった。
その隙に正守は刃鳥を抱えて、ふわりと飛び上がる。そして足下に結界を作り、階段を昇るようにドンドン空高く上がっていく。
呆然としていた刃鳥だが、落とされないように正守の胸元をしっかりと掴んでいた。
大分高い場所まで来た時に、今までより少し大きい結界を作って着地した後、刃鳥を下ろした。

「見てごらん、この夜景。綺麗だろう? この高さまで来ないと見られない絶景だ」
満足げな顔をした正守が指差す先には、消えない都会の光が夜にきらめいていた。無理矢理連れてこられたとはいえ、刃鳥もその光景に見とれていた。
「この間、蜩の背中の上からも見ました」
ぽつりとこのムードを台無しにする一言を口にした刃鳥に、正守はガッカリした。
「あのさ、俺だって嫉妬ぐらいするわけ。せっかく二人っきりの時ぐらいは、他の男の話をしないでくれる?」
しかし刃鳥はきょとんとしている。彼女自身は蜩の事を異性として見ていないようだが、正守はそう思っていないという事をわかっていないようだった。
正守の言葉を待つ刃鳥の顔のあどけなさに、お手上げになってしまった。

少し風が冷たく感じた正守は、刃鳥をそっと自分の羽織の中に包んだ。
「そろそろ帰ろうか」
そう言った正守の胸に刃鳥は顔を埋めた。彼女は何も言わなかったが、その行動の意味を酌み取った正守は刃鳥の髪にそっと口づけた。


テレビでセスナに乗って夜景を楽しむプランというのを扱っていて、それを見た時に思いついたネタです。
まっさんだったらセスナに乗らなくても、上空からの夜景は見放題ですもんね。
だけど美希さんも蜩に乗れば簡単な事だし…という事でこんな展開に(笑) 081212