『お酒を一緒に』

刃鳥とアトラは、裏会幹部らから夜行本拠地に届けられた歳暮の箱を目の前にしていた。
「不思議よねぇ。裏じゃ何言ってるかわかんないくせに、こういうことは一応やるなんてさ」
アトラはブツクサ言いながら包装紙を取り、箱を次々と開けていく。アトラが散らかした包装紙は刃鳥が綺麗に畳んでいった。
「でも有名デパートから送られてるから、中身は安心出来るわ」
箱の中からお菓子や缶詰を取り出して、カゴに移していたアトラもうんうんと頷いていた。
そこに様子を見に来た正守が声をかけてきた。
「沢山あるな。こっちから贈った物は大したものじゃないのに…ありがたいけどね」
「頭領、そんなところに突っ立ってないで手伝って下さい」
刃鳥にそう言われると正守は逆らえない。彼女の傍であぐらをかき、空になった箱を丁寧にたたみ始めた。そんな二人を見たアトラは少し嬉しくなった。

「あ、これ日本酒ですよ。今度飲み会しましょうよ」
アトラが嬉しそうに酒瓶を手にして正守に提案した。
「その日本酒、この前少し飲んだんだけど、凄く美味しかったわ」
ラベルを見て言った刃鳥の言葉にアトラはニヤニヤしながら、
「なーんだ、副長ったら頭領としっぽりお酒なんか飲んでるんですかぁ?」
そんなふうに茶化すと、正守は渋い顔をした。しかしアトラはそれには気付かず、どこで飲んだのかと刃鳥に質問を続けたので、
「二週間前かしら裏会本部に行った帰り道で行正さんと会って、お腹空いてたから一緒におでんを食べたのよ。その時に薦められたのがそのお酒だったんだけど」
そう答えた。すると正守は絶界をうすーくまといながら張り付いた笑顔を見せた。その姿にアトラは驚愕し、刃鳥を抱え込んで正守に背中を向けた。
「ちょっと副長っ、なんて話するの」
「別にいいじゃない。行正さんとおでんを食べただけだし」
「そうじゃないわよ、例え相手が行正さんでも男と二人っきりでお酒飲んだなんて聞いたら、何もなくたっていい気はしないわよっ」
二人はちらりと正守に目を向けると、あぐらをかいたまま腕を組み、さっきと同じ笑顔を見せていた。あまりの気まずさに、
「あはは、私ちょーっと用事が…あははははは」
アトラはコソコソと部屋を後にした。

残された正守は不動の構え、刃鳥はそんな彼には目もくれずに黙々と片付けを続けた。
そして口火を切ったのは正守。
「日本酒、美味しかった?」
「ええ、初めて飲んだんですけど美味しかったですよ。おでんも味が良く染みてて」
その時の味を思いだしたのか、刃鳥は幸せそうな顔をした。その表情は優しく暖かな感じがし、正守は自分が小さく思えて情けなくなった。
正守は黙って立ち上がり、畳んだ箱と包装紙を小脇に抱えて部屋を出ようとした。
「行正さんとは何もありませんから」
立ち去ろうとする背中に刃鳥が言葉を投げかけた。そう……と振り向きもせずに小さく返事した彼に刃鳥は言葉を続けた。
「本当は明後日、一緒に出かける時にその店にお誘いするつもりだったんです。お嫌でなければご一緒していただけますか?」
正守は少しだけ振り向いた。彼の目に入ったのは、薄紅色に頬を染めた刃鳥が微笑む顔だった。さっきよりも少女な趣で愛らしかった。
「俺でいいの?」
正守の問いに、刃鳥はこくりと頷いた。
「じゃぁ明後日」
そう言って正守は部屋を離れた。

「良かったですね、頭領」
廊下の先にいたアトラが声をかけると、正守は照れくさそうな顔をした。
「俺もまだ小さい男だったんだな。あんなことぐらいで……」
「いいじゃないですか。そのくらい熱のある方が年相応だと思いますよ」
アトラは正守をそう励ましてから、刃鳥いる部屋に向かった。
正守も自室に戻り、刃鳥に誘われたことを喜びつつ、熱の意味を考えた。


普段は余裕ぶっこきまくりのまっさんも、些細なことで嫉妬すればいい(笑)
きっと美希さんの方が懐が広いと思うので、堂々としてそうですよね。
二人でおでんをはふはふすればいいさ。
ところで二人はお酒はどうなんでしょうね。まっさんはヘタレ愚痴、美希さんは愚痴を言い合ってそうです(笑) 081110