『ラング・ド・シャ』

軽いサクッという音を立てたそのクッキーは口の中ですぅっと溶けていく。薄く焼かれたラング・ド・シャ。日本茶との相性も悪くはない。
「刃鳥も食べたら?」
正守はラング・ド・シャの入った箱を刃鳥に差し出して勧めた。
「じゃぁ一つだけ」
刃鳥はそう言って指先で薄い一枚をつまみ、口に運んだ。軽い食感と優しい甘さが少し気に入ったが、一つだけと言った手前、それに甘い物は正守の好物であることを知っている以上、更に手を伸ばすわけにはいかなかった。
――惜しいことをした――
そう思いながら彼女はお茶をすすった。正守は相変わらず一枚つまんでは口に運ぶ作業を続けていた。

不意に刃鳥の目の前に一枚のラング・ド・シャが、正守の指につままれて現れた。その後ろには優しい笑みを浮かべた顔。
「ほら、もっと食べたらいいじゃないか。嫌いじゃないんだろ?」
自分の考えが見抜かれたことは少し恥ずかしいが、食べたいという気持ちの方が勝った刃鳥は、差し出されたラングドシャを口から迎えに行った。行儀が悪いのはわかっているが、そういう気分だった。
そんな刃鳥の姿に正守はふとあることを思いだした。
「刃鳥、知ってる? ラング・ド・シャの意味」
意味のわからなかった刃鳥は首を傾げて、さぁ?と答えた。
「猫の舌って意味で、その形が似てるからそう名付けられたらしい」
そう言った正守は刃鳥のあごをくいっと持ち上げて、
「目の前にいる猫の舌も味わってみたいね」
言い終わるや否や、彼女の唇に自分の唇を重ねた。


実は二ヶ月ほど忘れていたネタorz
ラング・ド・シャを頂いたことが発端で浮かんだ話です。まぁ、ベタと言っちゃぁベタなんですが、甘いな。
もうちょっと違った二人を書いてみたいのですが、自分の頭では無理です。 081105