『名残の月』
今夜は十三夜。夜行の本拠地では月見の宴が開かれていた。
宴と言っても縁側で団子を食べたり、大人達は少し酒を飲んだり。皆は月をよそに結構楽しんでいた。つまり月見は口実、よくある話である。
子供達を寝かせる時間になった為にお開きとなった。女性陣が子供達を部屋に連れていき、ほろ酔い気分の男性陣が食い散らかした物を片付ける。そしてあちらこちらに散らかった座布団は正守と刃鳥が集めて押し入れに仕舞っていた。
部屋の角に二枚の座布団が残っていたのを刃鳥が拾い上げると、
「それは俺の部屋に運んでくれ」
と正守が言った。理由は分からないが正守がそう言うならと刃鳥は座布団二枚を抱えて、正守の部屋に向かった。するとその後ろを正守がついてきて、二人が部屋の中に入った時点でスッと障子を閉めた。
「あの……何か?」
刃鳥は座布団を運んできただけなのに、部屋に閉じこめられてしまったのであるのだから当然の質問である。
しかし正守はそれには答えず、刃鳥から座布団を受け取って、灯りもつけない薄暗い部屋の中途半端な場所に二枚を並べて置いた。
「そこに座って」
と刃鳥を促して座らせ、その隣に正守も腰を下ろした。
刃鳥が居心地悪そうにしていると、正守がスッと手を挙げて前を指差すので、刃鳥はその方向に目を向けると、壁を丸くくりぬいて作られた小さな窓から月が覗いていた。
「特等席。悪くないだろ?」
そう言いながら、正守は文机の下からペットボトルのお茶や月見団子などを乗せた盆を取り出した。
「どこに何を隠してるんですか、頭領は……」
刃鳥は呆れ気味に言ったが、宴の最中、正守にしては団子を食べていなかったことを思いだした。
「もしかして、この為に?」
刃鳥はハッキリと言わなかったが、正守には伝わったのか照れくさそうに笑って頭をかいた。それから二つ用意した湯飲みにお茶を注ぎ、一つを刃鳥に差し出す。
「これを飲み干すまででいいから付き合って欲しいんだけど」
正守がそういうと、刃鳥は湯飲みを受け取り、
「一杯だけでいいんですか?」
と言った。正守は返事をしなかったが、月に目を向けて微笑んでいた。その顔を見て刃鳥は身体を少しずらして正守に寄りかかって一緒に月を眺めた。
こちらはNさんの「夜行で月見をした後に二人で改めて(意訳)」からヒントを得て書いたものです。スコールのように話が降ってきました。
たまには二人でしっぽりと時間を過ごせたらいいのにと思います。
081014