『年の瀬、台所にて』

年の瀬、夜行の庭では男達が餅をつき、台所では他の者達が分担しておせちの準備をしていた。
正守はその様子をひとつひとつ確認していく。奧のテーブルでは、刃鳥が一人でさつまいもを裏ごしていた。
「栗きんとん? 手伝おうか?」
正守が声をかけた。
「助かります。裏ごし器とボウルを押さえてもらえますか?」
と刃鳥は言ったが、正守は刃鳥の手から木べらを取り、俺がやるから下を押さえててと指示した。裏ごしの作業は思ったより力仕事になるので、正守が気を遣ったのだろう。
「すみません」
刃鳥はそう言って裏ごし器らを押さえると、正守が茹でたさつまいもを乗せて裏ごしを始めた。
「クチナシで染めると明るくて綺麗な色になるな」
正守が言ったことに対し、刃鳥は首を横に振った。どうやらこのさつまいもは茹でる時にクチナシで色を付けたものではなく、元から鮮やかな黄色をしたさつまいもだということらしい。
そんな話をしながらドンドン裏ごしていくが、いかんせん百人分。流石の正守も疲れが見え始めたので刃鳥が交代すると申し出たが、そのまま最後までやりきった。

裏ごししたさつまいもを大鍋に入れ、砂糖、夜行の料理番長お手製栗の甘露煮の蜜を入れて火にかけ、焦げないように混ぜ合わせる。
この混ぜる作業も裏ごしに負けず劣らずの力仕事である。疲れている正守にお願いするのは申し訳ないと、刃鳥が一人で作業していた。それを斜め後ろから正守がずっと眺めていた。
「あの……手伝っていただいてこんな事を言うのは失礼だと思うんですが。まだ何か用でも?」
刃鳥は遠回しに作業の邪魔だと告げたが、正守は返事をしない。ハァとため息をつく刃鳥。本当は理由を分かっているのだ。
――味見――
甘いものを作っている場を離れない甘味好きのしたいことなんてすぐに分かるわけで、
「少しだけですよ」
刃鳥はそう言って木べらに一口分のさつまいもの餡を乗せ、ふぅふぅと息を吹きかけて少し冷ましてから差し出した。正守は餡をを指で取り、半分だけ口に運ぶとニンマリと笑った。
「丁度いい甘さだ。ほら刃鳥も味見して」
正守は自分の指に残った餡を刃鳥の口元に差し出す。
「それは頭領が召し上がって下さい。私は……」
と刃鳥が口を開いた隙に、正守は指を押し込んだ。
「んっ!!」
刃鳥の口の中に餡を残すようにゆっくりと指を引き出した。正守は満足そうな顔をしていたが、刃鳥は不機嫌な顔をしてジロリと一睨み。そして何も言わずに鍋の中を混ぜ続けた。

皆は忙しくしていたので気が付かなかったようだが、その光景をただ一人見てしまった閃は
「頭領と副長……なんか……エロい」
と顔を耳まで赤くしてつぶやき、立ちすくんでしまった。


指舐めなネタを考えてたらこんな話に。最初はアイスクリームだったのですが、いつの間にか栗きんとんorz
ベタから大分外れた感じが自分の描いた話っぽいなと思います。ええ… 081007