『甘味茶屋にて』

畳のベンチシートがある、半個室の甘味茶屋。三人の男女が同席している。
ほうじ茶ゼリーと煎茶のセット、くず餅と抹茶のセット、抹茶パフェ。オーダーした物がテーブルに並ぶ。

ほうじ茶ゼリーを目の前にした、年齢よりも幼く見える和服の女性が、不満を顔一杯にたたえて口を開く。
「ちょっと。私は刃鳥さんだけを誘ったのに、なんであんたが付いてくるのよ」
あんたと言われて、斜向かいに座って抹茶パフェを早速つついている、五分刈りにあごひげの男が顔を上げた。
「ん? 俺?」
「あんた以外にいないでしょうが。邪魔だからどっかに行ってよ」
夜未はそう言って、自分を落ち着けるように煎茶をすすった。

「だってさ、刃鳥がいつもなら着ないような着物を着て、出かけるんだよ? 浮気かと疑っちゃうじゃないか。まぁ、浮気なんかしないだろうけどさ、どんな相手の為に着飾ったのか気になるじゃない」
正守はパフェをつつく手を止めて、自分が付いてきた事の正当性を語った。それを聞かされた夜未は苛立ってきて、
「あんたはそれでいいだろうけど、それって刃鳥さんを信じてないってことなんじゃないの? 私はね、あんたの顔を見ずに刃鳥さんと話がしたかったから、あんたの行きつけでない店に誘ったのに、これじゃ意味無いじゃないっ」
と、正守に対する不満を支離滅裂に主張した。

刃鳥に会って話をするだけなら夜行の本拠地に来て、刃鳥の部屋か、どこか個室で話をすればいいことなのに……正守はそう言ったが、すぐさま夜未の反論。
「あんたが邪魔しに来るから嫌なのよっ!!」
その反応を見て、正守に一つの疑問が浮かぶ。
「えーと、春日さんって、刃鳥のこと…好きなの?」
そう言われた夜未は顔を真っ赤にした。
「そっそうよっ。も……もちろん女友達としてねっ。 あんた以外の人間はまず嫌いじゃないわっ」
必死になって言う様が、正守と刃鳥それぞれを正反対の方向に特別視している事を強調していた。

「女友達……ね。なら俺の方が分がいいな」
正守はニヤリと笑う。 友達として仲良くするのはいいけど、それ以上は求めるなよと言わんばかりに夜未に冷たい視線を送る。無言の脅迫を受けて夜未はビクリとした。

「と、とにかく、あんたが邪魔だって言ってるでしょ? 早くどっか行ってよ」
「まだパフェを食べ始めたとこだよ。終わるまでは席を立たないから」
「わかったわ、それ持って別の席に座って。それで妥協してあげる」
「そんな行儀の悪いこと出来ないし、刃鳥の横は俺の指定席だし」
「あんた、ホントにムカつくわ」
正守が視界に入らないように身体を斜めにして責め立てる夜未と、パフェをつつきながら対抗する正守。二人の声はだんだんと大きくなる。

「すみません。玄米茶一杯いただけます?」
店員を呼び止めオーダーする落ち着いた声に、正守と夜未の交戦が止まる。その声の主、刃鳥が二人の方を向き、怒りの上に笑顔を貼り付けて
「お茶ぐらい静かにいただきたいんですけど」
と言った。
刃鳥にそう言われてしまっては、口論を止めないわけにはいかなくなった二人。夜未は正守を睨み付け、正守は刃鳥に許しを請うように情けない顔をした。
刃鳥はちらりと二人を見やって、何も言わずに玄米茶をこくりと飲んだ。


夢で見たネタです。起きた後も鮮明に残っていたので、テキストにしてみました。
美希さんが愛されているネタは大好物です(笑)が、どうして夜未さんまで…という気がしないでもないです。 080905