『彼女のサンタ』
「それじゃぁね」
蟹沢はそういって、寮の中に消えていった。門の前に取り残された修兵は呆然としていた。
今日は現世でいうところのクリスマスイブ。友人達は恋人や仲間達と過ごす算段をしていたので、修兵もそのメンツに入れて貰うつもりだったが、周りからは「一緒に過ごす相手がいるのに?」と言われた。
なるほど、と思った修兵は蟹沢と夜を一緒に過ごそうと決めていたのに、結局出来たのはそば屋で一緒に天ぷら蕎麦を食べる事だけだった。
「俺と一緒に居たくはないのか?」
ぽつりとつぶやいて踵を返し、自分の寮へ向かった。
蟹沢は制服から普段着に着替えて、自分で入れた熱い茶をすする。
「檜佐木くんが誘ってくれるなんて……珍しいけど嬉しかったな」
修兵と霊術院からの帰りに寄り道が出来て、お腹も心も満たされていた。
蟹沢もクリスマスイブのことを知らなかったわけではないが、修兵がそういう事に乗っかるとは思えなくて、端から期待していなかった。それだけに一緒に寄り道出来た事がとても嬉しかった。
「早く寝ないとサンタさんが来てくれないかもね」
クスッと笑って部屋の灯りを消し、布団に潜り込んだ。
彼女がうつらうつらしかけたとき、窓の外からガサッという音がした。木々が風に揺れた音ではなく、明らかに故意に立てられた音だった。
蟹沢は手元にあった半纏に袖を通し、注意深く窓に近づいた。窓からそっと外の様子を伺うと、近くに植えられていた木の上に、修兵がいたのである。
「檜佐木くん、何してるのよっ」
慌てて窓を開け、強い口調で声をかけると、修兵は情けないような笑顔を見せて、頭を掻いた。
「寒い。入れてくれ」
修兵は彼女の方に腕を伸ばしてきた。蟹沢は仕方なく彼の腕を取り、部屋に引き込んた。修兵の身体は部屋の中に収まり、彼の腕の中に彼女が収まった。そして彼女の身体を少し強く抱きしめた。
「柄じゃないけど、蟹沢と一緒に過ごしたいんだ。追い返さないでくれ」
「もう、今更出て行けなんて言えないでしょ」
蟹沢は凍えて赤くなった修兵の鼻の頭を指でチョンと突いた。
「ビックリしたわ。早寝したらホントにサンタさんが来ちゃうんだもの」
そう言われて修兵はゴメンと謝り、蟹沢を解放した。蟹沢は窓を閉めて、
「このおっちょこちょいのサンタさんはどんなプレゼントをくれるのかしら?」
と笑った。修兵は更に顔を赤くして、彼女から視線を逸らした。
夜ばい…か?(笑)
ヘタレ修兵が思いきった行動に出て、蟹沢さんを驚かせるということをたまにはして欲しいなという感じです。
この後どんな風に二人が過ごしたのかは色々考えておくれよ。ナニがあっても、なくてもイイ感じのクリスマスイブだと思いますが(笑)
081224