このテキストは本誌337話のネタバレを含みます。
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アヨンに握りつぶされ、投げ捨てられた修兵は宙を舞う間、頭の中で色んなことが思い出されていた。
幼い頃、虚に襲われていたところを死神に助けられた事。
それがきっかけで死神を目指し、真央霊術院に入学した事。
親しい同級生を現世実習の時に失い、自らも傷ついた事……
――蟹沢も、こんな風に宙を舞ってたか――
修兵がそう思った時、目の前に蟹沢の姿を見た。懐かしい彼女は優しい笑みを浮かべ、手を差し伸べていた。
自分を迎えに来てくれたのだと解釈した修兵は、彼女の手を取るべく腕を伸ばした。もう少しで指が触れるところまで来た時、修兵の頬に痛みが走った。
さっきまでの笑みを消した蟹沢は、怒りの目で見ていた。
『何、諦めてるの?』
冷たい声が飛んできて、修兵はハッとした。ただやられて終わるなんて、あの時と変わらない。このまま蟹沢の元へは行けない。そう思うと意識が少しずつハッキリとしてきた。
『ごめんなさい、叩いてしまって。でも檜佐木くんの鎖結も魄睡も生きてるの。だからしっかりして』
さっき修兵を叩いた手は、修兵の頬を優しく撫でた。
「ありがとう、蟹沢。俺はまだ大丈夫なんだな?」
修兵の確認する問いに、蟹沢はニコリと笑って答えた。
「なぁ、一人で寂しくないか?」
唐突な修兵の質問に、蟹沢はきょとんとした。そして少し考えて、
『四十年くらい、大した時間じゃないわ。一人だけどずっと眺めていたい人がいるから、暇じゃないし』
笑って答えた。
『檜佐木くんがこっちに来るのはまだ早いわ。役目を終えた時にはちゃんと迎えに来るから、それまではしっかり勤め上げてね。九番隊副隊長さん』
蟹沢は両の掌で修兵の顔を包み、彼の額に唇を寄せた。その柔らかな感触が、修兵の萎えた気持ちを払拭してくれた気がした。
「なぁ、蟹沢。唇にも……」
『檜佐木くんっったら、こんなときに盛ってるんじゃないわよっ』
蟹沢はさっき口づけた場所を指で弾いた。修兵はその痛みをよそに、変わらない彼女の反応が嬉しかった。
蟹沢の手が修兵の身体を優しく突き放した。
『またね』
「ああ。ありがとう、蟹沢」
修兵の視界から彼女の姿は消え、元の景色が戻ってきた。
――俺はまだ戦える――
落下する自らの身体。痛みでまた意識を失いそうになりながらも、地面に叩きつけられるのを鬼道で防ぐ術を考えた。
337話を読んだ時に「修兵…orz」となったのですが、あれだけの状態になったら、もしかしたらあの世(死神のあの世ってどこだよ・笑)を垣間見てもいいんじゃないか?と思った時に浮かんできた話です。
蟹沢さんは神や聖女でもなんでもないので、痛みを取ったり、傷を治したりは出来ませんが、気持ちぐらいはなんとか出来るんじゃないかと思いましてね。
修兵が無事に立ち上がってくれる事を期待しています。
081211