『土産』

空はどんよりと暗く、雨がしとしと降っていた。朝からずっとこの状態で、白哉は鬱々としていた。
やっと仕事が片づき、さあ帰ろうかと思ったタイミングで浮竹が笑顔で話しかけてきたのも、その気分に拍車をかけていた。
「兄は何をしに来たのだ?」
白哉は不機嫌をたっぷり含んだ声で言った。
「なんだ白哉。今話しただろう、土産を持ってきたって言っただろうが」
浮竹はそう言うと、茶色い紙袋を差し出した。その袋を白哉がじっと眺めていると、
「ほら、奥方に持っていってやれ。珍しいぞ、現世のシュークリームという菓子だ。生ものだから早く帰らんと傷むぞ」
そう言った浮竹は無理矢理白哉に袋を持たせ、笑顔で立ち去っていった。
呆然としながら浮竹を見送った白哉はふと思った。

――緋真は喜ぶだろうか――

白哉の妻はきっと喜ぶだろう。時折甘い菓子を口にしては愛らしい笑顔を見せてくれるのである。白哉はその笑顔がなによりの好物であった。
この菓子を渡した時の妻の顔を想像すると、ふっと口元がほころんでしまうのである。
たったこれだけのことなのに、すっかり心が晴れた白哉は家路を急いだ。


コンビニでシュークリームを見た時に、突然降ってきたネタです。
この夫婦は二人っきりの時には、ほのぼのっとしてるんでしょうねぇ。 081008