「桜」

桜並木を二人で歩いていた。
「今年も綺麗に咲いてんなぁ」
「はい」
そんな他愛もない会話が続いていたので、 一角は無理に誘って悪かったかなぁと思っていた。

不意に軽く引っぱられた気がした。
見るとネムの白い指が一角の死覇装の袖を小さく掴んでいた。
「あの…もう少しゆっくり歩きませんか?」
一角はネムが飽きないようにと話すことに気を取られて、うっかりしていたことに気づいた。
「ああ、済まねぇ。あんたのペースに合わせるの忘れてた」
「いえ…そういうことではなくて、ゆっくり歩けば斑目様ともう少し一緒にいられるかと思いまして」
ネムは頬を桜よりも濃い色に染めて、俯いた。
一角は歩き疲れたと言い訳し、茶屋へ行くことを提案した。
ネムは微笑み、 「はい、お供します」 と返事した。