カップケーキ
「ただ今戻りました」
刃鳥は正守の部屋の障子を少し開けて声をかけた。
返事がなかったので中を覗いてみると、上にホイップクリームがのった
カップケーキにかぶりついている正守が目に入った。
しまったという顔をした正守と、またですか?という顔の刃鳥。
「それ、いくつ目ですか?」
その言葉に正守は照れ隠しをするように笑い、二つ目と答えた。
それを聞きながら刃鳥は正守の手元の湯飲みには何も入っていないのを確認し、
急須に手を伸ばした。
「これさ、なんか今流行ってるんだって。それで試しに買ってみたんだ」
と聞きもしないことを正守は一所懸命に話し、
刃鳥はハイハイと頷きながらお茶を入れ、湯飲みを差し出した。
正守は受け取った湯飲みの熱くない部分をつまむように持ち、ズズッとすすった。
「そうだ、これ。刃鳥っぽいと思って買ったんだけど」
そういってカップケーキを一つ刃鳥の前に差し出した。
差し出された物の何処が私っぽいのだろうと不思議そうに見つめる。
少し考えて、ああ、と何かに気付いたようで
「このチョコミントクリームのミントの色が髪の色に似てるからですね」
と言った。
正守はそれもあるけどと言ってクスリと笑った。
刃鳥にはそれ以外思いつかなかったので、眉間に皺を寄せて更に考えに入った。
「分からない? 自分の事って案外分からないものだから仕方ないか」
正守にそう言われて、刃鳥は考えるのを止めた。
「ミントみたいにクールでさっぱりとしてるのに、時々チョコみたいに甘く優しいじゃないか」
そう言って正守は刃鳥に優しい視線を送る。送られた刃鳥はぽかんと見返していた。
刃鳥は自分がそんな風に評されたことがなく、それを正守の口から聞いて、
どうしていいか分からなくなってしまったらしい。
「俺はそう思ってるんだけどね。ともかくそのケーキ食べてみて」
そう促されて刃鳥はいただきますと言って口に運んだ。
卵とバターの香りと、正守が自分だと評したチョコミントクリームが口の中に広がった。
自分を誉めるみたいな気がしたが、素直に美味しいという感想を述べた。
正守はホッとした顔で良かったと答えた。
「え…と、頭領は召し上がらないんですか?」
そう言いながら刃鳥は手の中にあるカップケーキを差し出した。
「いや、いいよ。それは全部刃鳥が食べればいい」
正守は何か含みのある笑みを浮かべた。その表情に刃鳥はマズいことを聞いたと思ったが、
その時既に左手首を捕まれていて、正守の口からは
「そのケーキは刃鳥に全部あげるから、後で刃鳥を食べさせてくれ」
と、刃鳥の予想通りの言葉が出てきた。
刃鳥は慌てて、掴んできた正守の手をほどこうともがいた拍子に、
手にしていたカップケーキのクリームが刃鳥の鼻の頭に付いた。
刃鳥はますますマズいことになったと思い、クリームを袖でぬぐおうとしたが、
その手も掴まれて、正守にぺろりとクリームを舐めとられた。
「もう食べさせてくれるの? それじゃぁ遠慮なく」
正守に簡単に押し倒された刃鳥はどうにかして逃げなくてはと考えたが、
「まっまだ、ケーキを食べ終わってませんっ」
そう言うのが精一杯だった。
後で食べさせてくれと自分で言ってしまったのだからと、正守は刃鳥の身を起こした。
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腕を組みながら眺める正守を尻目に、
刃鳥は時間稼ぎをすべく、小鳥が ついばむようにカップケーキを食べる。
だがそれもいつまでも続かない。 こんなときに限って誰も部屋を 訪れない。
刃鳥がカップケーキを食べ終わるのが 早いか、正守が諦めるのが早いか。
この地味な攻防戦は当然のように
正守の勝利で終わった。
チョコミントアイスを食べている時に思いついたネタです。
最初はそれで話を考えていたのですが、後にこういうカップケーキが
あるのを知って、アイスからケーキに変更しました。
まぁどっちでもいい話なんですが(笑)
マンガでサラッと描けたら良かったのですが、そういうわけにもいかず
文章にしてみたのですが、下手すぎて伝わってないんじゃないかと…orz
いっそのこと「箇条書きでネタ提供」の方が潔かったような気がします。
080829 |