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『ここに至るまでの話』

刃鳥は大きなため息をついた。
正守からの呼び出しに応じて部屋にやってきたのだが、目の前に出された紙袋の中身を見てしまったからである。
袋の中にはタイトで丈の短いワンピース・長い手袋・ロングブーツ・魔法使いの帽子、以上四点が入っていた。
「あの……これ、ハロウィンの衣装ですよね?」
刃鳥が質問をすると正守はこくりと頷いた。
ハロウィンは子供達が仮装して楽しむもので、大人である自分達が仮装するものではない。なのに今ここにある衣装はどう見ても大人サイズである。
そして正守のニヤニヤ顔を見ると、おおよそ何を考えているかはすぐにわかる。
「これを着ろとおっしゃるんですね?」
刃鳥は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ああ、俺も衣装を用意してるから」
正守はズレた答えを返してきた。刃鳥は反論しようと思ったが、ふと昨年の出来事を思いだした。

一年前の同じ日。仮装をした子供達が不意にやってきては、お菓子をプレゼントするというのを夜行の皆で楽しんでいた。子供達は沢山のお菓子を抱えて満足そうに寝入った後、刃鳥の部屋に狼男の仮装をした正守が入ってきた。
「Trick or Treat!」
用意したお菓子は全て子供達の手に渡ってしまったので、刃鳥は仕方なしに手持ちの梅のど飴を正守に渡した。手渡されたのど飴を口に放り込んで、コロコロと舌で転がし始めた。
「お菓子を渡しましたから出ていって下さい」
刃鳥がそう言うと、
「これだけじゃ足りないよ?」
正守はそう言って、違う意味の狼に変化してしまったのである。

――同じ轍は踏まないわ――
そう思った刃鳥は取りあえず言うことを聞いておこうと思い、衣装を持って隣の部屋に移動して着替えた。
衣装のサイズがピッタリすぎることに気味悪さを覚えたが、ほんのひととき我慢をすれば……と自分に言い聞かせた。
着替え終わって正守の元に戻ると、彼はドラキュラ風の衣装を着ていた。正守の洋服姿を見たことがない刃鳥にとっては新鮮だった。
「で、後は何をしたらよろしいですか?」
一応指示を仰ぐ。正守は黙ったままマジマジと刃鳥の姿を眺めていた。「ふむ」とつぶやいて式符を一枚取り出して式神を作り出した。そしてその式神に自分の携帯電話を渡し、
「写真を撮ろう」
と刃鳥に言った。
「はぁ?」
予想の斜め上を行く発言に思わず気の抜けた返事をしてしまった。正守はちょっと困った顔をしながら、
「いや、これでみんなと一緒に楽しもうかと思ったんだけどさ、刃鳥があんまり可愛いから他のヤツらに見せるのがもったいなくなってね」
などと言う。誉められては刃鳥としても嫌な気はしない。しかし可愛いと言われたがあまりにも久しぶり過ぎて、顔が赤くなってしまった。
そして一枚だけという約束で刃鳥は正守の隣に立つ。
カシャッ
シャッター音がして、瞬く間に撮影は終了した。正守は式神から携帯電話を受けとり、式神を消す。それを見た刃鳥は、用は済んだと元の服に着替える為に部屋を出て行くべく、正守に背を向けた。その背中に正守が言葉を投げかけた。
「その後ろ姿、そそるね」
刃鳥の背筋がゾクッとした。

081017 090416改稿